Saturday 15 September 2012

原発ゼロ、高すぎるハードル 巨費必要な再生エネ/温室ガス削減に逆行

政府が革新的エネルギー・環境戦略で打ち出した「2030年代の原発稼働ゼロ」の達成には、高いハードルが待ち受ける。政府は太陽光や風力、地熱など再生 可能エネルギーの大幅な拡大を想定する。その費用負担は巨額にのぼり、立地場所の検討もこれからだ。国際公約した温室効果ガスの削減目標の達成も難しく、 国際的な信用は失墜する。核燃料サイクルが崩壊すれば、使用済み核燃料の保管場所は即座に失われ、安定した電力供給に不可欠な原発の再稼働が遠のくことに なる。

 ◆1200万戸に太陽光パネル

 政府の戦略は、30(平成42)年時点の水力を含む再生可能エネルギーの発電量について、現在の1100億キロワット時から3千億キロワット時に伸ばす。総発電量に占める割合は、30%程度になる見通しだ。

 30年の原発ゼロを実現するには、再生エネの比率を35%にする必要があるとしている。試算では、必要な投資額は累積50兆円。現在約90万戸の一戸建 て住宅に設置されている太陽光パネルを約1200万戸に拡大しなければならない。風力も東京都の2倍近い面積を確保することが前提だ。

 政府は今後、グリーン政策大綱をまとめ具体策を示す。しかし、実際に技術開発や設備投資する産業界は「実現性は乏しい」(経団連)と批判し、官民一体の普及体制の構築は難しい。

 ◆国際公約の達成困難に

 原発ゼロが実現した場合、総発電量に占める火力の割合は、原発が稼働していた10年時点よりも上昇する可能性がある。

 戦略は、30年時点の温室効果ガスを1990年比おおむね2割の削減の目標を示した。その際、20年時点の温室効果ガス削減率は5~9%。鳩山由紀夫政 権が「2020年に1990年比25%の排出削減」とした国際公約の達成は困難で、国際的な温室効果ガス排出削減の流れに逆行する。

 原発をなくしながら、温室効果ガス削減目標を達成するためには、海外から排出権を購入することもできる。ただ、政府試算では原発比率を1%低減するごと に、154億円の購入費が発生する。市街地へのガソリン車乗り入れ規制や、重油ボイラーの使用禁止などの規制強化も考えられ、大きな負担が国民や産業界に のしかかる。

 ◆核燃料サイクル先送り

 使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り出し、再利用する核燃料サイクル事業の今後の方向性については、事実上先送りした。

 再処理によって生じる高レベル放射性廃棄物は、青森県六ケ所村の再処理施設内に一時的に貯蔵されている。最終処分場の設置を引き受ける自治体が現れないまま、政府は六ケ所村に頼ってきた。

 だが、原発ゼロで使用済み核燃料がなくなれば再処理施設はいらなくなる。

 政府は革新的エネルギー・環境戦略に「最終処分場にはしない」ことを厳守すると明記したが、六ケ所村は「なし崩し的に核のゴミ捨て場になる」と不安を募らせている。

 青森県や六ケ所村は、再処理事業を運営する日本原燃との間で「事業が行われない場合、使用済み核燃料を施設外に搬出する」との覚書を締結しており、それに従えば、六ケ所村に保管されている約2900トンの使用済み核燃料は、それぞれの原発に送り返される。

 六ケ所村から送り返されれば、九州電力の玄海原発などは燃料プールがあふれ稼働できなくなり、「ゼロを目指すが、当面は稼働させる」という政府の都合の良いシナリオは、崩壊する。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120915-00000096-san-pol

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