Sunday 27 September 2015

太陽光と風力と工場が集まる半島、電力の自給率300%を超える

愛知県の南端に、太平洋に沿うように細長く延びる渥美半島がある。日射量は全国でトップクラス、太平洋から強い風が年間を通して吹き続ける。この半 島の沿岸部に広がる工業地帯の一角に、太陽光と風力のハイブリッドによる発電所が1年前の2014年10月に運転を開始した。三井化学が所有する82万平 方メートルの用地に総工費180億円をかけて建設した「たはらソーラー・ウインド発電所」である(図1)。


tahara_solarwind1.jpg 図1 「たはらソーラー・ウインド発電所」の全景。出典:三井化学ほか
 
発電能力は太陽光で50MW(メガワット)、風力は3基の大型風車を使って6MWになる。年間の発電量は合計で6750万kWh(キロワット時) を見込み、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万9000世帯分に相当する。発電所が立地する田原市の総世帯数(2万2000世帯)の9 割近くをカバーすることができる。
 太陽光と風力の両方で発電できるため、天候による出力の変動は単独の場合と比べて小さくて済む。ハイブリッド型の大きな特徴だ。太陽光パネルは特 性が異なる4種類を組み合わせた。全体を遠隔監視システムで制御しながら、発電量を計測・分析して今後の発電所の建設に生かしていく。
 この発電所に隣接する2つの区域でも、大規模なメガソーラーが2015年3月に同時に稼働している。愛知県の企業庁が所有する98万平方メートル の用地に建設した「たはらソーラー第一・第二発電所」で、発電能力は2カ所を合わせて81MWに達する(図2)。現在のところ大分県の「大分ソーラーパ ワー」(82MW)に次いで国内で2番目に大きいメガソーラーだ。

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tahara2solar.jpg 図2 「たはらソーラー第一発電所」(上)と「第二発電所」(下)の全景(画像をクリックすると拡大)。出典:シーテック
 
年間の発電量は9200万kWhにのぼり、一般家庭の2万5000世帯分に匹敵する。隣接するハイブリッド型の発電所を加えると、田原市の全世帯が使用する電力の2倍の規模になる。わずか半年のあいだに市の電力自給率が一気に200%も上昇した。
 周辺ではトヨタ自動車の田原工場が操業中で、高級車のレクサスをはじめ年間に30万台の自動車を生産している(図3)。さらに港をはさんで対岸には、鉄のスクラップから鉄鋼製品を作る電炉メーカーで最大手の東京製鉄が広い敷地に工場を展開している。

tahara12solar0.jpg 図3 田原市の工業地帯に広がるメガソーラー建設用地(画像をクリックすると拡大)。出典:愛知県企業庁
 
製鉄会社の工場にも太陽光と風力の発電設備が広がっていく。全体で100万平方メートルに及ぶ構内に残っていた20万平方メートルの空き地を利用し て、発電能力が15MWのメガソーラーを建設中だ(図4)。2016年の夏に運転を開始する予定で、年間に1500万kWhの電力を供給することができ る。これで4000世帯分の電力が増える。
 
tahara_megasolar.jpg 図4 東京製鉄の田原工場に建設中のメガソーラー完成イメージ(右下の青い部分)。出典:シーエナジー
 
発電事業者は中部電力グループのシーエナジーで、中部電力に売電してCO2排出量の低減に役立てる。近くで運転中の「たはらソーラー・ウインド発 電所」と「たはらソーラー第一・第二発電所」のプロジェクトには、同じ中部電力グループのシーテックが中核の事業者として参画している。
 この東京製鉄の工場の構内では風力発電所が稼働中だ。海側に3基の大型風車が並んで、合計6MWの発電能力がある(図5)。関西電力グループの関 電エネルギーソリューションが東京製鉄から用地を借り受けて、2014年5月に運転を開始した。年間の発電量は1400万kWhを見込んでいて、3900 世帯分の電力になる。売電先は中部電力である。

tahara_4ku.jpg 図5 東京製鉄の田原工場で運転中の「田原4区風力発電所」の位置と全景。出典:関西電力、関電エネルギーソリューション
 
渥美半島のほぼ全域を占める田原市では沿岸部の年間平均風速が毎秒6.5メートルになり、丘陵の頂上付近では毎秒8メートルを超える。沿岸部にあ る田原4区風力発電所の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は27%に達する見込みで、風力発電の標準値である20%を大きく上回る。

tahara_rinkai2.jpg 図6 「田原臨海風力発電所」の全景。出典:田原市環境部
 
恵まれた風況を利用して、トヨタ自動車の工場の中でも10年前の2005年から大規模な風力発電所が運転を続けている。構内の海側に11基の大型 風車を配置した「田原臨海風力発電所」である(図6)。トヨタグループの豊田通商とJ-POWER(電源開発)の共同事業として始まり、現在はJ- POWERが100%出資するジェイウインド田原が運営している。
 発電能力は22MWもあり、年間の発電量は4000万kWhにのぼる。愛知県で最大の風力発電所で、1万1000世帯分の電力を供給する。これを含めて市内で稼働中の太陽光と風力の発電所を合計すると、田原市の再生可能エネルギーによる電力自給率は300%を超える。
 
愛知県では南部の太平洋沿岸を中心に豊富な日射量に恵まれている。住宅用の太陽光発電設備の導入量は全国のトップで、固定価格買取制度が始まって以 降の新設分だけでも非住宅用と合わせて全国で3位の導入量がある(図7)。さらに風力発電のほかに小水力とバイオマスの導入プロジェクトが各地域に広がっ てきた。
 
ranking2015_aichi.jpg 図7 固定価格買取制度の認定設備(2014年12月末時点)
 
県内には3本の大きな川が流れていて、その水量を利用して農業用水路が平野部を中心にはりめぐらされている(図8)。農業用水路には必ず落差があ り、小水力発電を実施できる場所は数多く存在する。愛知県は2014年7月に「小水力発電マスタープラン」を策定して、県内各地の農業用水路に小水力発電 の導入を推進している。

shosuiryoku.jpg 図8 愛知県内の主要な農業用水路。出典:愛知県農林水産部
 
このマスタープランでは小水力発電の候補地166カ所を選び、それぞれの場所で可能な発電能力を算定した。166カ所を合わせると5MWを超える 規模になり、小水力発電の標準的な設備利用率60%で計算すると年間の発電量は2700万kWhに達する。一般家庭で7500世帯分だ。
 すでに2013年から2014年にかけて6カ所で小水力発電所が運転を開始した。小水力の中では規模の大きい発電所の建設計画も内陸部の豊田市で始まっている。愛知県の中央を流れる矢作川に設けられた灌漑用の「羽布(はぶ)ダム」からの水流を利用する(図9)。

habudam2.jpg 図9 「羽布ダム小水力発電所」の完成イメージ。出典:愛知県知事政策局
 
ダムの直下に発電所を建設して、45メートルの落差を生かして発電する仕組みだ。最大で毎秒3立方メートルの水流を取り込んで、発電能力は 854kWになる。年間の発電量は56万kWhを想定していて、設備利用率は74%と高い。運転開始は2016年度内を予定している。
 一方の都市部では大量に発生する生ごみを利用したバイオマス発電の取り組みが急速に進んできた。代表的な例は名古屋市の南側に隣接する大府市(お おぶし)のプロジェクトだ。周辺地域を含めて生ごみや食品廃棄物を集約して、微生物で発酵させてバイオガスを生成する(図10)。

oobu_biomas2.jpg 図10 「横根バイオガス発電施設」の外観。出典:オオブユニティ
 
1日あたり70トンの廃棄物からバイオガスを作り、625kWの電力を供給することができる。年間の発電量は500万kWhになり、1400世帯 分をカバーする。2015年10月に運転を開始する予定である。バイオマス発電は再生可能エネルギーの中でも設備利用率が高く、この発電所では90%を超 える見通しだ。
 ほかにも県内各地の廃棄物処理場や下水処理場で同様にバイオガスを使った発電所の建設計画が続々と始まっている。愛知県の再生可能エネルギーは沿岸部を中心に太陽光と風力が伸びて、内陸部では小水力とバイオマスが広がっていく。今後も拡大できる余地は十分に残っている。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1509/24/news022_3.html
 

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