Sunday 27 September 2015

「アンモニア火力発電」がいよいよ実現か、41.8kWガスタービン発電に成功

今回の研究は、総合科学技術・イノベーション会議の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) エネルギーキャリア」 の委託によるもの。SIPとは、科学技術イノベーションの実現に向けて、縦割り行政の弊害を抑えるために策定された府省横断型の施策で、内閣府が取りまと めを行っている。
重要性の高い10の課題が取り上げられているが、その1つが水素を使った新しい「エネルギーキャリア」の開発である(関連記事)。SIP エネルギーキャリアでは、再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を低コストに製造・利用できる技術を確立することを目的としており、「水素キャリア」として注目を集める素材の1つが「アンモニア(NH3)」だ。

水素社会の鍵を握る水素キャリア

日本では「水素社会」の実現に向けた取り組みが政府主導で行われており、2020年の東京五輪・パラリンピックをその見本市とする計画などが進められている(関連記事)。 これらのエネルギーインフラを水素に置き換えることを検討する中で、水素をどのような形で貯蔵し輸送するのかという点は重要なポイントとなる。水素キャリ アは、水素を多く含んだ化学物質の形でエネルギーをより簡便に貯蔵・輸送を行うための媒質であり、現在では、有機溶媒に水素を着脱して用いる「有機ハイド ライド(メチルシクロヘキサンなど)」と、窒素と水素から合成し、直接燃焼して用いる「アンモニア」が有力視されている。
 アンモニアは炭素を含まず、水素の割合が多い水素キャリアとして特に注目されており、発電用燃料としての利用が期待されている。さらに、アンモニアは燃焼しても主に水と窒素しか発生しないことから、従来の燃料の一部をアンモニアに置き換えるだけでも、CO2排出量の削減効果が大きい。そのため、SIP エネルギーキャリアではアンモニアを水素の貯蓄・運搬源として活用するだけでなく、アンモニアを直接火力発電の燃料として活用することも研究テーマの1つと据えている。

アンモニアをメインの燃料としたガスタービン発電

産業技術総合研究所(以下、産総研)では、再生可能エネルギーの大量導入を支える水素キャリアの研究開発を推進しているが、東北大の流体科学研究所と連携して、アンモニアを直接燃焼させてガスタービンで発電する技術の開発にも取り組んでいる。
 アンモニアは一般の燃料より着火しにくく、また燃焼速度も遅いなどの課題があり、アンモニアを燃料とするガスタービン発電はこれまで行われていな かった。しかし、アンモニアの発電用燃料としてのポテンシャルを示すため、さまざまな燃料を利用できるガスタービンを用いた発電の実証試験を行った結果、 灯油にアンモニアを約30%混焼させ、21kW(キロワット)の発電に成功している(関連記事)。
 その後、アンモニアをメインの燃料としたガスタービン運転を目指した技術開発を進め、大流量のアンモニア供給設備とメタン供給設備を整備して、ア ンモニアをメインの燃料としたガスタービン発電の実証試験を行った。実証試験は産総研の福島再生可能エネルギー研究所(福島県郡山市)において実施したと いう。

50kWのガスタービン発電装置で出力80%を実現

発電装置は、メタンおよびアンモニアガス双方を大流量かつ安定に供給できる設備を整備するとともに、ガスタービンの燃料流量制御プログラムを改良して灯油、アンモニア、メタンのうち2系統まで任意の組み合わせで燃料供給を行えるようにした(図1)。

photo 図1 アンモニアを直接燃焼できるマイクロガスタービン発電装置 出典:産総研
 
その結果、定格出力が50kWのガスタービン発電装置を用いて、メタン-アンモニア混焼およびアンモニア専焼により約80%出力の41.8kW発 電に成功した。また、燃焼後の窒素酸化物(NOx)を含んだ排出ガスに適量のアンモニアを添加し、脱硝装置で処理することでNOxを環境省の排出基準 (16%酸素換算で70ppm)に十分適合できる10ppm未満(16%酸素換算で25ppm未満)までに抑制できたという。
 メタン-アンモニア混焼試験では、液体燃料用の噴射弁に灯油を供給してガスタービンを起動した。回転数が速やかに上昇した後、回転数 75000rpm(1分間の回数)で維持しながら発電を開始。回転数が安定した状態で26kWの発電を行った後、気体燃料用の噴射弁にメタンを供給してメ タン燃焼を行い、灯油供給を停止した。続いてメタンにアンモニアを体積流量比1:2.5(発熱量で1:1)になるまで混合しても安定に発電できた。その 後、燃料供給と回転数を制御しながら発電出力を段階的に増大させ、定格回転数の80000rpmで41.8kWを達成したという(図2)。

photo 図2 メタン-アンモニア混焼試験の燃料供給と発電出力の変化 出典:産総研
 
アンモニア専焼試験では灯油を供給してガスタービンを起動した後に、アンモニア供給量を増やしてアンモニア専焼に移行したうえで出力を確認したところ、定格回転数の80000rpmで発電出力41.8kWを達成した(図3)。

photo 図3 アンモニア専焼試験の燃料供給と発電出力の変化 出典:産総研
 
これらの試験結果は、天然ガスを主な燃料とする大型火力発電所において、燃料の一部をアンモニアに置き換えるといった段階的な導入や、アンモニア専焼によるCO2フリーの大型発電の可能性があることを意味し、温室効果ガスを大幅に削減できる、水素キャリアとしてのアンモニアのポテンシャルを示しているといえる。

低NOx化も可能に

アンモニアの燃焼においては、窒素酸化物などの有害ガスが課題として存在するが、いずれの試験においても燃焼後の排出ガスにアンモニアを適量添加 することによりNOxを脱硝装置で処理して排出量を10ppm未満に削減できたという。アンモニア専焼では、未燃アンモニアが11ppm残留したが脱硝装 置の下流では検出されなかった。メタン-アンモニア混焼では同じ発電条件でも未燃アンモニアは残留せず、アンモニア専焼よりも燃焼が強化されていることが 明らかになったとしている。
 今後は、産総研において、メタン-アンモニア混焼と、アンモニア専焼によるガスタービンの特性を詳細に調べ、燃焼強化と低NOx燃焼ならびに実用アンモニア発電システムの実現につながる知見の獲得を目指すという。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1509/24/news034_2.html

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