Sunday, 6 December 2015

プラスチックの太陽電池、効率改善に役立つ不思議な挙動 (1/3)

「有機物を用いた太陽電池は、同じ潜在能力(バンドギャップ)を持った無機(シリコン)太陽電池よりも性能が低かった。原因は分子間で電子の受け渡 しの際に起こるエネルギーの低下だ。これを解消する高分子を開発できた」(理化学研究所創発物性科学研究センター上級研究員の尾坂格氏)。

 有機物を利用した太陽電池は、プラスチック基板上に印刷手法を用いて製造できる。製造コストに響く高温環境や真空環境は必要ない。大面積で柔軟性のあるパネルを素早く安価に製造できる。
 欠点は変換効率だ。大量に普及しているシリコン太陽電池や、化合物太陽電池(CISやCdTe)と比較すると、変換効率が低い。シリコン太陽電池などの変換効率の記録は20~25%、有機物を用いたものは10%程度だ*1)
 このような状況を打破する研究成果を、2015年12月2日、理化学研究所と京都大学の研究チームが発表した。有機薄膜太陽電池の変換効率の改善に役立つ高分子「PNOz4T」を開発したという内容である(図1)*2)
*1) 国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2015年8月6日に公開した太陽電池の変換効率の記録によれば、有機薄膜太陽電池セル(研究段階の小面積セル)の変換効率は11.5%である。
*2) 科学技術振興機構(JST)が進める戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の「高効率ポリマー系太陽電池の開発」(研究開発期間2014年10月~2020年3月)の成果。理化学研究所創発物 性科学研究センターの尾坂格上級研究員、同瀧宮和男グループディレクター、同川島和彰客員研究員、京都大学大学院工学研究科の大北英生准教授、同玉井康成 博士研究員の共同研究。


yh20151205Riken_PNOz4T_400px.jpg 図1 開発した「PNOz4T」の外観 固体状態(左)と溶媒に溶かした状態(右) 出典:理化学研究所
 
PNOz4Tを用いた太陽電池は、膜質に課題があり、現時点の変換効率は約9%(図2)。これを改善することで、2016年度末には12%達成を狙う。最終的には15%まで向上する可能性があるという。
 「15%を実現できれば有機薄膜太陽電池の商品化が大幅に進む。今回の成果を応用することで実現できると考えている」(同氏)。

yh20151205Riken_cell_590px.jpg 図2 PNOz4Tを用いて試作した太陽電池セルの裏面(左)と受光面(右) 銀色の部分は金属電極、深緑色の部分がPNOz4Tとフラーレン誘導体(PCBM)との混合薄膜。出典:理化学研究所

無機にはない有機の弱点とは

有機薄膜太陽電池の変換効率が上がりにくい最大の理由は、太陽光から得たエネルギーの一部を電力として取り出す前に失うことだ。
 無機系の太陽電池では、原子や分子のそばに位置する低いエネルギー(基底状態)の電子が、太陽光を吸収して高いエネルギーになる。このエネルギー差(バンドギャップ)を即座に電力として取り出すことができる*3)。電子の抜けた穴は、正孔として電流を運ぶ。
 「有機薄膜太陽電池では、無機系の太陽電池と違って、分子が光を受けても即座に電子と正孔に分かれない。数十ナノ秒間、励起状態にとどまる。励起状態を放っておくとエネルギーが熱に変わってしまう。そこで励起状態になった分子のそばに、フラーレン(C60)を装飾した分子を置き、この分子が電子を受け取って、電流を取り出す手法を一般に採る」(尾坂氏)*4)
 励起子からフラーレン類分子へ電子を移動させるためには駆動力が必要だ。逆に言えば、この分だけ取り出すことできる電気エネルギーが減ってしまう。冒頭の尾坂氏の発言は、この駆動力をほぼゼロにできたことを意味する。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1512/04/news086.html

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