Sunday, 27 September 2015

電力の自給率が500%を超える町に、日本最大の風力発電プロジェクト

葛巻町(くずまきまち)は岩手県北部の高原地帯にあって、酪農と林業が盛んなところだ(図1)。16年前の1999年に「新エネルギーの町・葛巻」 を宣言して、再生可能エネルギーの導入にも積極的に取り組んでいる。町のキャッチフレーズは「ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち」である。

 町の中央を縦断する山岳地域は風況に恵まれていて、年間の平均風速は7.5メートル/秒を超える風力発電の適地が広がっている(図2)。この一帯 の1900万平方メートルに及ぶ区域を対象に、三菱商事が60基の大型風車を設置する「葛巻ウィンドファームプロジェクト」を計画中だ。1基あたり 2.3MW(メガワット)の発電能力を想定していて、合計で138MWに達する。国内で最大の「新出雲ウインドファーム」の78MWを大きく上回る。

kuzumaki5_sj.jpg 図2 岩手県の風況。赤色の線(スマートジャパンが追記)で囲んだ部分が葛巻町。年間平均風速の単位はメートル/秒。出典:岩手県環境生活部
 
三菱商事は環境影響評価の最初の手続きにあたる「計画段階環境配慮書」を7月中旬から公表してプロジェクトを開始した。配慮書の内容に対して9月 18日には環境大臣が経済産業大臣に意見を提出して、その中で国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシなどの影響に強い懸念を表明している。
 岩手県内では広い地域で希少猛禽類のイヌワシとクマタカが生息している(図3)。葛巻町でも全域がイヌワシの生息区域に入るほか、クマタカが生息 する範囲も広い。こうした希少猛禽類の鳥が風車に衝突することを避けるために、環境省は発電設備の視認性を高める措置などを検討するように要求した。もし 重大な影響が避けられない場合には計画の中止も含めて見直しを求める厳しい内容だ。

kuzumaki7_sj.jpg 図3 希少猛禽類の生息状況(10キロメートル単位)。黄色の線(スマートジャパンが追記)で囲んだ部分が葛巻町。出典:岩手県環境生活部
 
すでに葛巻町では2つの風力発電所が稼働していて、合計15基の風車で22MWの発電能力がある。「新エネルギーの町」を宣言した1999年から運 転を続けている「エコ・ワールドくずまき風力発電所」(3基、1.2MW)と、2003年に運転を開始した「グリーンパワーくずまき風力発電所」(12 基、21MW)である(図4)。
 
kuzumaki1_sj.jpg 図4 「グリーンパワーくずまき風力発電所」の全景。出典:葛巻町役場

2カ所を合わせると年間の発電量は5600万kWh(キロワット時)に達する。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万5000世 帯分を超える規模で、葛巻町の総世帯数(2850世帯)の5倍以上に相当する。さらに隣接する岩泉町(いわいずみちょう)にまたがる山岳地帯でも、J- POWER(電源開発)が62MWの風力発電所の新設計画を推進中だ。環境省は複数の風力発電所による累積の影響についても懸念している。
 その一方で岩手県では再生可能エネルギーの導入量を拡大するために、風力発電を大幅に増やす方針だ。2010年度に67MWだった風力発電の規模 を2020年度には575MWに拡大する目標を掲げている(図5)。再生可能エネルギー全体の半分を風力発電が占めることになる。

kuzumaki6_sj.jpg 図5 岩手県の再生可能エネルギー導入目標と実績。出典:岩手県環境生活部

 ただし当初の3年間では導入量が伸びていないため、新たに県内の4カ所を「風力発電の導入可能性が高い地域」に選んで事業者の参入を促している (図6)。葛巻町は対象地域に含まれていないものの、すぐ北側の山岳地帯が候補に挙がっている。とはいえ希少猛禽類が生息している地域であることに変わり はなく、風車に衝突する危険性は小さくない。

kuzumaki9_sj.jpg 図6 岩手県が選んだ風力発電の導入可能性が高い4つの地域(左)、「ウ」の地域の風況(右)。岩手県環境生活部
 
同様の問題は近隣の青森県や秋田県でも生じる。葛巻町の風力発電プロジェクトの進捗によって、東北や北海道で数多く進んでいる開発計画に影響を与 える可能性がある。発電事業者が効率的に計画を進められるように、鳥類の保護を考慮した風力発電の適性を示す地域の分布図を国が策定する必要が高まってき た。
 
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1509/25/news027.html

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