Saturday 8 September 2012

エネルギー考:自治体、PPS争奪 確保電力に限界 契約不履行の事例も /神奈川

福島第1原発事故に伴う東京電力の電気料金値上げを受け、県内の自治体では電力調達先を特定規模電気事業者(PPS、新電力)に切り替える動きが進んだ。 しかし、PPSが確保できる電力は限られ、奪い合いの様相を呈する。国内の余剰電力が減り、発電設備を確保していないPPSが契約履行できないケースも出 た。一方、県や県内企業は太陽光発電の拡大に取り組むが、大規模設備の設置は多額の投資が必要で、回収には長期間を要する。稼働中のリスク対応も迫られ、 課題は多い。東日本大震災から間もなく1年半。電力の安定確保に向けた模索は道半ばだ。
 横浜市は電力自由化開始1年後の01年度からPPSを対象に電力調達の入札を始め、昨年度まで多くが成立していた。市庁舎も04年度から入札で契約して きたが、今年度分は3月の入札日前に応募していた2社が辞退。「ほかからの需要が高く、これ以上供給できない」が理由だった。
 慌てた総務局は急ぎ全事業者に連絡を取って契約の意向を確認したが、供給が可能なPPSは1社だけ。今年度に入るぎりぎり直前に随意契約した。
 今年は1~3月で入札55件を行ったが成立は6件のみ。市庁舎を除く残り48件は、全く応札しなかった東電と通常価格で契約した。
 担当者は「PPSは売り手市場で、自治体だけでなく民間からの需要も増えた。3月にはほとんど契約が決まってしまうのだろう。東電も、わざわざ入札して安い価格で売る必要はない」と漏らす。
 04年度から入札を始めた県も今年1~3月の入札19件のうち成立はわずか1件。ほか1件は同じPPS業者と随意契約し残る17件は東電と通常契約した。
 三浦市は市役所、学校など20施設について10年8月から1年8カ月契約でPPSを先行導入していたが、今年度は指名競争入札に応札した業者がゼロ。来年度は、導入効果を調査しタイミングを見計らって入札を行う。
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 葉山町は4月、本庁舎の電力を6月以降、PPS「ラフ」(千葉県流山市)から購入すると発表した。15社と見積もり合わせをしたが、14社は「電力市場の需給逼迫(ひっぱく)」などを挙げて不参加で、ラフが唯一残っていた。
 この時点で年間約41万キロワット時の購入を予定しており、13・2%の値上げを通告した東電の約905万円に比べ、ラフなら約856万円と試算していた。しかし、5月下旬に突然、「6月1日からの供給が難しく、7月以降に変更したい」との文書が届いた。
 ラフは自前の発電施設を持たず、工場などの余剰電力を仲介する日本卸電気取引所で電力を購入している。国内の原発が停止した5月5日以降、1キロワット 時当たり18~19円だった卸売り価格が25~30円と高騰。東電など電力会社が高値でも購入するため、ラフは電力が確保できなくなった。
 6月4日、ラフは町を訪れて陳謝し、別業者を紹介した。ただ、同じく自前施設を持たないPPS7、8社も事業停止状態に陥っていることを明かし、「この ままだと事業継続も難しくなる。電気不足はしばらく続く」と肩を落とした。ラフは栃木県小山市、群馬県草津市、埼玉県蕨市とも契約していたが、同様の措置 をとった。
 葉山町は6月27日、ラフと契約を解除。7月26日、二宮町などに電力供給する「日本ロジテック協同組合PPS管理センター」(千葉県銚子市)と、本庁舎など14施設に関し10月から14年3月までの電力購入を契約した。
 同センターは発電設備のある清掃工場と契約しており供給に問題はないという。年間使用量は約238万キロワット時で東電と比較した場合、約160万円の削減になる。一方で、ラフに損害賠償や違約金の支払いなどを求めるか検討している。
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 相模原市は入札に1社だけ参加したPPS「エネット」(東京都港区)と契約し、3月から本庁舎と南清掃工場、6月から北清掃工場で電力供給を受けている。市立小中学校60校は供給力と使用電力量を考慮して、9月と10月の2段階に分けて移行する。
 エネットはNTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスが設立した。ホームページによると、自社発電所含め各地に電源を確保しPPS業界で販売電力量シェアは約5割を占めている。
 横須賀市も市立学校の電力調達にあたり、指名競争入札でエネットと契約した。契約電力は7485キロワットで来年8月まで。秦野市は7月から1年間、本 庁舎など3棟でエネットと契約し、今後も学校などでの導入を検討している。真鶴町は4月から、役場庁舎や町民センターなど11施設で丸紅から電力を受けて いる。【松倉佑輔、松永東久、田中義宏、高橋和夫、澤晴夫】
 ◇太陽光発電を推進 高コスト・災害リスク課題
 原発のような危険が無く、温暖化ガスも出さない自然エネルギーの利用促進は急務だ。
 太陽光発電の普及に積極的に取り組む県は12カ所の施設候補地を公表し、メガソーラー(大規模太陽光発電所)事業の誘致を進めている。太陽光の電力買い 取り価格が1キロワット時42円と固定されている間に進める方針。これまでに厚木市で発電事業者が決まり、相模原市では33の応募社から選考中で、大井町 でも公募が始まっている。
 厚木市の発電事業者は市内の遊技機製造などを営むオーイズミで、同市上古沢の旧採石場約3・4ヘクタールに設置する。地権者19人の私有地で、賃料負担のほか整地なども必要で、総建設費は約7億円とみられる。
 オーイズミの大泉政治社長は20年かかっても採算性の見通しは厳しいと説明する。そのうえで参入の理由を「観光スポットとして、また電力の地産地消のため」と語り、地域貢献を強調している。
 相模原市は同市南区麻溝台にある市所有の一般廃棄物最終処分場跡地(2・6ヘクタール)を利用し、企業を事業主体としたメガソーラーを計画している。市が用地を無償提供し売電収入の5%以上を得る。
 市の計画では、最大出力1000キロワット、平均発電量は年間100万キロワット時を想定。設置費用は約4億円で、年間4000万円の収入を見込む。市は有識者でつくる事業者の選定委員会を設置。33社に企画書の提出とプレゼンテーションを求め、10月中に決定する。
 窪倉電設(横浜市港北区)は先月、新潟県燕市にメガソーラーを建設し、売電を始めた。窪倉敏専務は「出力1メガワットで設備投資費は3億円。収益は年約3800万円で維持費が年数百万円。十数年たたなければ利益は出ない」と話す。
 燕市での建設は、土地が無償貸与だったのと、市が非常に前向きで調整を進めたことが大きかった。ただし、同社は自社施工しており、通常は1メガワットの施設で4億円近くかかるという。
 窪倉専務は「初期コストが非常にかかることに加え、回収するまでの災害リスクが最も怖い。結局参入するのは、ソフトバンクや三井物産など大手が中心になる」と指摘している。【福井聡、高橋和夫】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120908-00000043-mailo-l14

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