Saturday 8 September 2012

ほんとの空へ・お~い福島:反「地熱発電」の理由=山田孝男 /福島

地熱発電は「脱原発」の希望かと思ったら、温泉枯渇の脅威だという。天栄村の温泉宿主人、佐藤好億(よしやす)(67)の確信である。温泉郷の地熱発電に警鐘を鳴らし、秘湯を守る佐藤の話を聞いた。
 この人を知ったのは半月ほど前である。白河まで出かけたついでに二岐(ふたまた)温泉へ足を延ばし、ぶらり投宿した「大丸あすなろ荘」。そのフロントに 彼はいた。そばに「地熱発電の隠された真実/温泉文化滅亡の危機」という本(9月末刊)の発売予告チラシがある。気になって手に取ったのがきっかけだっ た。
 佐藤はこの本のプロデューサーであり、日本温泉協会の副会長にして地熱対策特別委員長であり、「日本秘湯を守る会」会長だった。
 佐藤によれば、地熱発電は自然と調和的ではない。火山地帯を掘り、天然の水蒸気や熱水をくみ上げて発電機の蒸気タービンを回すのだが、噴き上がる力が 年々衰えるので数年ごとに補充井(せい)を掘る。周辺の温泉の湧出(ゆうしゅつ)量減少、水位低下、泉温低下をまねく例が珍しくないという。
 県内には既に「柳津西山地熱発電所」(三井金属の子会社が蒸気を生産、東北電力が発電)があるが、「地球温暖化防止」「脱原発」の流れに乗り、吾妻、安達太良の山すそを中心に、新たに六つの計画が浮上している。
 それに対し、福島と山形の温泉・旅館事業者が結束、自然保護団体、商工団体をまじえ、開発企業、行政も参加する情報連絡会ができた。その場で、新たな地熱開発の条件として「地元合意」「情報公開」「過剰採取規制」などを申し合わせたというのが8月までの情勢である。
 佐藤は平安時代が起源という温泉宿の四男。須賀川高から一橋大へ進み、同大学院修士課程を終え、母校の経済学部の助手になった。
 まもなく村に戻って家業を継承、ブナ原生林保存運動にかかわった。公害告発で有名な宇井純(元東大助手)と交流があったが、活動家でも政治好きでもない。
 「たとえば郡山の電気を賄うというような、地産地消型の地熱発電ならいいと思います。でも、水力、原子力に続き、福島が、地熱で、三たび大電力供給基地になるということはありえない」
 欲しいものがいつでも手に入る便利さはないが、土地ごとに四季の恵み豊かで人情が厚かった昭和40年代以前の日本。自然を尊び、良き伝統に返るという感覚が、秘湯を守る男の信念を支えているように見える。(敬称略)(毎週土曜日掲載)
………………………………………………………………………………………………………
 ■人物略歴
 ◇やまだ・たかお
 1952年東京生まれ。早大卒。75年毎日新聞社入社。長崎支局、西部本社報道部を経て政治部。93年福島支局次長。政治部長、東京本社編集局次長、同編集局総務。07年から政治部専門編集委員。月曜朝刊コラム「風知草」筆者。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120908-00000088-mailo-l07

No comments: