Saturday, 21 July 2012

安易な太陽光パネルの普及は禍根を残す/夏目幸明(ジャーナリスト)

◆0.3%という数字の意味◆

 神奈川県川崎市にある東京電力浮島太陽光発電所(最大出力7000kW)を訪ねた。天候は小雨。傘を差さなくとも見学はできる程度の雨だ。発電状況を示すパネルをみると、出力は400kWを示していた。

「曇りの日だと発電量は最大出力の半分程度、雨の日だと十分の一以下でしょうか」(東京電力広報)

 東京電力は「再生可能エネルギーを活用すべき」という立場をとっている。ただし現在のところ、同発電所の発電量は「川崎市全体で使われる電力の0.3%程度」の規模で、東京電力は神奈川県、山梨県にこのような太陽光発電所を計3カ所設置したにとどまっている。

 二つの理由があった。

「(同社が電力を供給する)関東は立地の問題(太陽光発電所を建設する広い土地を確保しにくい)があるため、まだ発電量を増やすには至ってはいません」

 次の理由は、太陽光パネルの出力が「お天気次第」で、出力量が読めないことにある。同社広報は「浮島太陽光発電所の発電量のデータはリアルタイムで当社 の給電所に送られ、太陽光で発電できた分だけ、ほかの火力発電所の出力を弱めるなどして利用しています」と話すが、これは、発電量が“川崎市の0.3% 分”だから可能なことだ。

 だが、仮に電力の7%以上(資源エネルギー庁が2030年には可能とする試算)を太陽光・風力発電で賄ったとしよう。これほどの割合になると、太陽光パネルが発電しない雨の日に使う火力発電所を準備する必要があるかもしれない。

「そこで当社は、たとえば(太陽光で発電した電力をためておける)蓄電池のメーカーさんにさまざまな形で協力するなど、今後、いかに再生可能エネルギーを活用していくか、いまも議論を進めている段階です」

 ただし蓄電池の価格や性能は、まだ太陽光発電所に併設できるほど安価になってはいない。だから東京電力は「再生可能エネルギーの活用には積極的に取り組む」と表明しつつ、いまだ蓄電池付きの大規模太陽光発電所などは建設できずにいる。

 ところがこの段階で、自然エネルギーで発電された電力を家庭用自家消費分以外は全量、電力会社が買い取る制度(固定価格買取制度)が成立。たとえば太陽光発電による電力は、電力会社が42円で買い取ることになる。

 なぜ、この制度が生まれたのか、さらに、今後の日本の電力はどうなっていくのか。

◆政策による“ブーム”の創出◆

 いま、太陽光パネルの市場では一大ブームとも呼ぶべき現象が起きている。たとえば、東京・池袋にあるヤマダ電機「LABI1日本総本店池袋」のトータル スマニティライフコーナーには、家庭向け太陽光パネルをはじめとしたスマートハウス関連商品の売り場が設けられ、週末に訪ねると、何組もの家族連れが「電 気は今後何年間、いくらで買い取ってもらえるのか」といった係員の説明を真剣な眼差しで聞いていた。ヤマダ電機幹部が証言する。

「売上げは前年に比べて倍にまで伸びています。以前、太陽光パネルは地場の工務店さんが販売していましたが、われわれのような家電量販店が参入することによってお客さまの目に触れる機会も増え、今後さらに需要は伸びるのではないでしょうか」

 自治体も対応する。たとえば、太陽光パネルの設置に熱心な神奈川県の県庁所在地・横浜市の環境創造局によれば、「県と市により出力一kW当たり3万円の 補助金が出され(2012年4月~2013年1月末まで。上限11万2,000円)、募集件数約4,000件に対し(開始2カ月で早くも)1,045件の 受け付けがある」など、こちらも盛況だ。

 さらには、ソフトバンクを率いる孫正義氏も発電ビジネスへの参入をめざし「自然エネルギー財団」を設立。「生まれてきた使命を果たす」とまで語り、電力の買い取り価格が決まると「(太陽光発電所を)もう少し増やしたい」と述べるなど意気盛んだ。

 たしかに、自然エネルギーの買い取り制度は、参入をめざす事業者にとっては、合理的なスキームといえる。まず、電力の買い取り価格は「参入が早いほど高 い」。これは市場の拡大をめざした施策だ。たとえばDVDや液晶テレビなど、さまざまな家電製品は、一般的に登場直後は価格が高いが、時がたつほど安く、 性能も上がっていく。そこで、最初に高い買い取り価格で“自然エネルギーブーム”を巻き起こせば、太陽光パネルも次第に安く、性能がよいものが出てくる、 という考え方に基づいている。

 同時に産業育成策としても大きな効果が望まれている。前出のヤマダ電機幹部いわく、「売れ筋はパナソニック。日本メーカーの巻き返しが目立つ」という状況。テレビの販売台数に陰りが出て以来、苦戦続きのメーカーにとっても新たな市場創出となっているのだ。

 仮にもし、電力会社が各家庭に太陽光パネルの設置をお願いし“小規模発電所”を増やしていくとなると、普及までに膨大な時間が必要になる。だが“個人も 儲かる仕組み”をつくれば次々と参入が望める。資源エネルギー庁の担当者は「これだけのスキームができたのは画期的なこと」と話し「(太陽光パネルが置け る)屋根を借り受ける会社や(電源開発に投資する)市民ファンドなど、成功する事業者が生まれてほしい」とのコメントを残している。

 当然、筆者も再生可能エネルギーの活用に関しては賛成だ。しかし、本稿ではあえて、忘れてはならない問題点を指摘したい。

◆語られざる“年一万円”◆

 第一の問題はコストだ。

 太陽光パネルによる発電はほとんど出力がない日もあるため、電力会社は“雨の日だけ動かす火力発電所”を準備しなくてはならない可能性がある。しかも、電力会社が高価な自然エネルギーを買い取る資金もすべて消費者負担だ。

 太陽光の場合、1kW時(単価と呼ばれる)当たり42円。風力は23.1円~57.7五円(いずれも出力量によって変動する)。資源エネルギー庁により 「法律上、最初3年間は利潤にとくに配慮する」ことが規定されており、電力会社が火力発電所で発電した場合のコスト・単価当たり約10円に比べて、かなり 高い。

 すると、家計にはどのようなインパクトがあるのか。再生エネルギーの先進国・ドイツでは、2011年、一般家庭(年間消費電力量3500kW時を想定) の電力料金をベースに計算すると、再生エネルギー買い取り費用が年額約100ユーロ分、消費者の負担増を招いている。日本円に直せば1万円前後だ。再生エ ネルギーの買い取り費用にともなう負担増につき、日本ではもっと安く試算されているが、将来的にドイツと同程度の負担増になってもおかしくはない。

 ここで、21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹の話を聞いた。澤氏いわく「政策の成否は“モメンタム(世論の後押し、勢い)”によって決まる面がある」。 福島第一原子力発電所の事故により、モメンタムは“脱原発”へと一変した。しかし澤氏は、「電気料金が高くなりすぎないか?」と危惧するモメンタムがその うち現われるとみる。

「たとえばドイツでは、脱原発による電力不足は風力だけでは到底埋まらず、天然ガスや石炭火力発電の従来の計画以上の増設が本命視されています。その背景 には、固定価格買取制度による負担の急増があります。政策というのは、はやりすたりがあります。現実の負担が発生し始めると、急速に幻想から覚め始める。 日本でも同じでしょう」

◆読めない電力の今後◆

 電力料金が年に1万円高くなる程度なら受け入れてもいい、と思われる方にも、お伝えしたい事実がある。最大の問題はコストでなく、エネルギーの供給計画が立てられないことなのだ。澤氏が話す。

「いままでは国と電力会社が20年後、30年後を見据え、石炭で何%、原子力で何%、と長期的な展望をもってエネルギーの供給計画を立ててきました。しか し、具体的なサイト(建設予定地)計画もない再生可能エネルギーに期待しすぎると危ない。一山当てようと参入した業者が、見込みどおりに建設ができなかっ たり、発電設備が故障したりして、すぐに撤退したらどうすればいいのか。そのリスクについてはあまり議論されているようには思えません。原子力の『安全神 話』と同じマインドです」

 しかもエネルギー基本計画では、新規の電力業者が参入し、供給が計画どおりいかず電力が足りなくなったとき、誰が不足分を埋めるのかが明確になっていない。

「もし供給不足が現実化したら、結局、電力会社が不足分の補充を行なうことになるのではないか。こうした供給義務に対する電力会社の現場の使命感は、とて も強いものがあります。『電力会社は原子力発電を再開したくて再生可能エネルギーを嫌がっている』と考える人もいますが、それは間違い。彼らは電力の供給 責任が果たせなくなることを恐れているのです。しかも、期待感だけで『自然エネルギーの比率が30%』などと設定されたら、計画どおりに行かなかったとき の危険が大きい。安定供給に支障を来すのではないかと慄然としています」

 澤氏はさらに、エネルギー政策の責任の所在が不明確であることに対して危惧を述べる。

「人事異動する官僚や選挙次第の政治家は、結局責任をとることは難しいのがいまの統治システムです。現在検討中のエネルギー基本計画では将来、自然エネル ギーの割合を25~35%まで高める、と謳われていますが、これは、何かロードマップがあっての計画ではありません。菅直人前首相が『太陽光パネルを 1000万戸に』と発言したときと同様に、そうなればよい、という計画にすぎず、しかも不可能だったときは誰が責任をもつかも決められていない。もし政治 家や官僚が、失敗したら自分が責任をとれ、といわれたなら、風力発電の割合を12%まで高める、といった数値も必ず下方修正するのではないでしょうか」

 要するに、現在は予想されるエネルギー政策転換のデメリットに目をつぶっている状況なのだ。

 筆者は、自然エネルギーへの転換を進めることに対する反対意見を述べたいわけではない。「何が何でも自然エネルギーを使う」という目的が先走り、電力の安定供給は後回しになっていることが危険なのだ。

「電気は原子力で発電しようが、太陽光パネルで発電しようが、電気であることに違いはありません。原子力の是非を問うことは発電の“方法”を論じることで あり、本来の政策目的は電力の安定供給であるはずです。しかしいまは、発電の方法を論じるほうが電力の安定供給より優先されすぎています」(澤氏)

◆材木会社の地道な努力◆

 ならば、今後はどんなエネルギーがよいのか。原子力の代替となるエネルギーを探すのであれば、天候に左右されず、一定の出力をもつ電源がいい。とする と、まだ開発されていない小規模水力発電、地熱エネルギー、バイオマスなど新たな燃料での発電が望ましい、ということになる。先の項では多く触れなかった が、風力もまた、事情通によると「欧州では1年中偏西風が吹く場所があるため、風力発電で一定の出力が見込めるが、日本には適地が少ない」状況だけに、出 力を調整できる火力とセットで考えるべきものでしかない。

 そこで筆者は、経済性、安定性がほぼ満たされた再生可能エネルギーで発電する企業の取材に赴いた。

 三菱商事と中国木材(本社・広島県呉市)の出資を受けて設立された神之池バイオエネルギーだ。同社の発電所は、茨城県・鹿島工業地帯の中国木材鹿島工場内にある。取締役を務める白髪の紳士・前田哲男氏がざっくばらんに話してくれた。

「弊社は、工場で木材を製材する時に出る樹皮や“おが”を燃やし、発電しています。ほぼ、環境に負荷をかけません」

 木材は空気中のCO2(二酸化炭素)を吸って育つから、木を燃やして出たCO2は、いずれまた木を育てるときに吸収され、プラスマイナスゼロになる。

「しかもアメリカやカナダでは、定期的に針葉樹を植え、育ったら伐る“木材の畑”ともいうべきシステムが機能しているから、環境破壊につながる森林伐採でもないんです」

 運転開始は08年7月で、出力は最大2万1000kW。とはいえ、ずっと最大出力で運転するほどの樹皮や“おが”は出ないから、通常、1万~1万 6000kW程度での運転を続けている。自社工場で消費する電力は約9000~1万kW。残りの数千kWを東京電力に売っているという。

 具現化に向け動きはじめたのは03年、中国木材鹿島工場の建設計画が立案された時まで遡る。当時、材木の工場では、ただ“おが”を燃やすのでなく、排熱 を木材の乾燥などに使うようになってきていた。同時に、新エネルギーに対し補助金が出ると聞き、社内で「好機だ」と機運が盛り上がったのだ。

 発電設備を担当したのが三菱商事だった。同社は国内外の発電プラント取引に関し豊富な経験をもつ。彼らは“おが”から効率よく発電できる新鋭の施設を設 置した。樹皮や“おが”は水分率が多く、燃やしたときのエネルギーは石炭の3分の1しかない。しかし荏原製作所が開発した内部循環流動床ボイラーは、前田 氏も「たしかに、かなりの水分率の燃料でも燃やすことができます」と信頼を寄せる性能を持っていた。

「しかも、燃料を燃やしたときに出る熱エネルギーを隣の飼料の企業にも有償で譲っており、ムダを極力、少なくしていることも特徴です」(前田氏)

 こうして神之池バイオエネルギー社は、経済産業省の施策、発電プラントを製造する企業の技術力などにも助けられ、再生可能な燃料をほぼ恒久的に調達でき、かつ電力の安定供給も可能な施設を完成させた、というわけだ。

◆電力の安定供給の議論を◆

 そして、筆者は以下のように結論づけたい。未来のエネルギーとは、このように、コスト・安全性とも万全といえる技術を使い、希望的観測でなく「実現可能なもの」を「じっくり時間をかけ」創出すべきものではないか。

 自然エネルギーの創出が将来的に必要であることは論を俟たない。火力による発電はCO2を出し、燃料費も莫大で、かつ、燃料はほぼ輸入に頼らざるをえな い。原子力による発電は事故が起きてしまうと取り返しがつかない事態を招く。そして、水力、風力、太陽光による発電は、火力や原子力の欠点を持たない。

 だが、自然エネルギーもまた、万全ではない。コストが高いことは甘受されたとしても、現在の太陽光発電の技術ではもっとも大切にすべき「電力の安定供給」という面で、火力や原子力に劣るのだ。

 もちろん、今後の技術革新に期待をするのはよいだろう。民間の活力を利用するのもよいだろう。だが、エネルギー政策は希望的観測に基づいていてはならない。

 思えば、原発が将来の世代に禍根を残すことになるのも、使用済み燃料を捨てる場所がないなど、技術的な弱点を技術革新に期待し“見切り発車”させたこと に原因があった。もし、太陽光・風力発電の欠点に目をつぶり、その将来を希望的に観測し、急激に普及させ続けたら、今度は数十年後、雨が降り、風が凪いだ 日、みんなが慌てて灯りを消す国となりかねない。

 澤氏が話すように、あくまで電力の安定供給を主眼とし、そのうえで、技術の振興策として普及を行なう――そのような方向に政策を微調整するべきではないか。

 最後に、澤氏の興味深いたとえ話を引用したい。

「電力会社はいま、発言の機会を失っています。今後のエネルギー政策の議論からも外されています。(民主党や政府にすれば)まな板の上に載った鯉(電力会社)が“この捌き方は痛いからやめてほしい”というのはおかしいということでしょう」

 福島第一原発の事故前はエネルギー政策に強力な影響力を及ぼしていた東京電力。しかし澤氏の言葉を借りれば、彼らは“発言力を失った”ことになる。

 だからこそ、今度は電力の安定供給を口にする勢力が少なくなってしまったのではないか。

 これが原発事故以来の“モメンタム”なら、筆者はいま、数十年後を危惧する。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120722-00000001-voice-pol

No comments: