火山国の日本は地熱資源に恵まれ、米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の資源量を誇ります。しかし、地熱資源のある場所が国立・国定公園内に多く、一部
温泉事業者の反対などもあって、地熱資源の開発は長らく停滞し、「失われた15年」とも呼ばれていました。風向きが変わったのは、再生可能エネルギーの固
定価格買い取り制度が2012年7月1日に始まったからです。国による規制緩和が進められ、地熱資源活用の動きが各地で出てきています。今回は、「地熱発
電と温泉との共存」をめざす新潟県の温泉地の取り組みを紹介します。
■「温泉との共存」の試み
1月中旬、越後湯沢駅から車で1時間ほどの松之山温泉(新潟県十日町市)を訪ねました。松之山温泉は、日本三大薬湯のひとつとして、温泉好きにはよく知 られた温泉地です。10個の源泉があり、そのうち源泉1~3号の3つを市が所有・管理しています。3つの源泉からの温泉水を約1キロメートル離れた温泉街 の配湯所に集め、周辺のホテルや旅館に配湯しています。
このうち源泉3号は温度が高く、流量も多いため、バイナリー地熱発電を導入する試みが行われています。源泉3号からの温泉(毎分260リットルの湧出 (ゆうしゅつ)量)は、減圧所で供給量と温泉街での使用量とのバランスを取り、不要分(毎分130リットル)は河川へ排出されていました。
浴用には使えず捨てていた熱水に加えて大気に捨てている余剰蒸気を利用することで、源泉3号からの湧出量をほとんど増やさずに、発電設備へ水温98度、 毎分388リットルの温泉水に匹敵する熱量を供給しようというものです。温泉事業者が地域活性化を目指して共同出資した「松之山温泉合同会社まんま」が中 心となり、温泉熱・水を利用した地域おこしを目指そうとプロジェクトに参画していることも特筆に値するでしょう。
2010年度から3年間、環境省「地球温暖化対策技術開発等事業~温泉発電システムの開発と実証適用地域の試験サイト」に選定され、100度以下の既存 の温泉による発電の試みとしては全国初になりました。開発したタービン発電機は設備容量87キロワット。実証試験では、タービン発電効率は72%以上とい う良い結果が出ました。温泉や電力系統に影響を及ぼさない温泉発電システムの実用機の実証を行った後、2013年度からは「環境省CO2排出削減対策強化 誘導型技術開発・実証事業~温泉発電における温泉熱利用効率の向上とノンフロン系媒体の安全性検証などによるCO2排出削減対策強化のための技術開発」を 行っています(~2015年度)。
温泉事業者の若手の中心人物である「ひなの宿ちとせ」専務で松之山温泉合同会社まんま代表社員の柳一成氏に伺いました。「松之山温泉は10軒の温泉事業 者から成る小さな組合ですので、新しい試みをやるのも動きやすい。捨てていた温泉の熱水を利用するわけですから大がかりな開発の必要はありません。地元で の合意形成に最大限配慮しながら、温泉街と共存できる可能性を探りたいと思っています」
バイナリー地熱発電による電力を具体的にどこに供給し利用していくかは、現在検討中です。「積雪が3メートルを超える豪雪地帯だけに融雪や温浴施設、そ して温泉熱を利用した低温調理加工所(約100平方メートル)などにバイナリー発電の排温水を使うことも考えています。また、過去の中越地震、中越沖地震 そして長野・新潟県境地震など度重なる災害経験からも、地域エネルギーの地産地消が災害時に大きな効力を発揮することでしょう」(柳氏)
■バイナリー地熱発電所
地熱発電は大きく分けて、「蒸気フラッシュ発電」(180~370度の高温資源利用)と「バイナリー地熱発電」があります。バイナリー地熱発電は、 80~150度の蒸気や熱水を熱源として、水より低い沸点を持つ媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電します。2つの媒体(水と低沸点媒 体)を利用することからバイナリーと呼ばれています。
松之山温泉のバイナリー地熱発電所は、温泉街の道路沿いの保有林の中にあります。積雪の多い時期でしたので、長靴を履き雪原の中を一歩一歩踏みしめなが ら5分ほど歩いて到着しました。開発を担当する地熱技術開発株式会社の技術部マネージャー、佐藤真丈氏に発電所内を案内していただきました。「ここではカ リーナサイクル発電というバイナリーの中でもアンモニア水の媒体を使った方式を採用しています。アンモニア水は、100度前後の熱源でも少ない熱水量で効 率よく発電できるという利点があります。ただ純粋アンモニアは毒物ですので、取り扱いには注意が必要です。タービンは新たに開発した超小型のものです。経 済的に200キロワット未満の小型発電設備は事業的に難しいといった面がありますので、コストをどう抑えていくかが大きな課題です」(佐藤氏)。また松之 山温泉の埋蔵資源量や継続的な採取可能量についても、現在調査・検討が行われています。
■成功モデルになれば人を呼ぶ
地熱は、地球内部から自然に放出されている熱を利用するもので、地球にやさしいエネルギー利用法です。11年の環境省のポテンシャル調査では、地熱発電 の賦存量は150度以上では2360万キロワット、120~150度では108万キロワット、53~120度では849万キロワットで合計賦存量は約 3310万キロワット。このほか、温泉発電のポテンシャルは72万キロワットと推計されています。
バイナリー地熱発電は、新たなボーリングなどをする必要がなく、天侯にも左右されず安定的に24時間発電できる利点があります。発電の最中に出る冷却水 の排熱もうまく利用すれば、温泉旅館のボイラーや暖房に使え、灯油や重油が節約できます。浴用に利用できず捨てられていた熱水を有効利用し、温泉街の活性 化につながるならば、各地の温泉地でも可能性が広がるのではないでしょうか。
再生可能エネルギーを利用したまちづくりが注目される中、松之山温泉が成功モデルになれば、各地から見学者が訪れることも期待できそうです。「地熱発電 と地域の共生」の地をせっかく訪ねるのですから、見学者には一泊してもらい、設備見学だけでなくゆっくり温泉に入り、地元の食事を味わい、心ゆくまで楽し んでもらいましょう。(松本真由美)
■まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1 ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムの コーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140302-00000557-san-soci
■「温泉との共存」の試み
1月中旬、越後湯沢駅から車で1時間ほどの松之山温泉(新潟県十日町市)を訪ねました。松之山温泉は、日本三大薬湯のひとつとして、温泉好きにはよく知 られた温泉地です。10個の源泉があり、そのうち源泉1~3号の3つを市が所有・管理しています。3つの源泉からの温泉水を約1キロメートル離れた温泉街 の配湯所に集め、周辺のホテルや旅館に配湯しています。
このうち源泉3号は温度が高く、流量も多いため、バイナリー地熱発電を導入する試みが行われています。源泉3号からの温泉(毎分260リットルの湧出 (ゆうしゅつ)量)は、減圧所で供給量と温泉街での使用量とのバランスを取り、不要分(毎分130リットル)は河川へ排出されていました。
浴用には使えず捨てていた熱水に加えて大気に捨てている余剰蒸気を利用することで、源泉3号からの湧出量をほとんど増やさずに、発電設備へ水温98度、 毎分388リットルの温泉水に匹敵する熱量を供給しようというものです。温泉事業者が地域活性化を目指して共同出資した「松之山温泉合同会社まんま」が中 心となり、温泉熱・水を利用した地域おこしを目指そうとプロジェクトに参画していることも特筆に値するでしょう。
2010年度から3年間、環境省「地球温暖化対策技術開発等事業~温泉発電システムの開発と実証適用地域の試験サイト」に選定され、100度以下の既存 の温泉による発電の試みとしては全国初になりました。開発したタービン発電機は設備容量87キロワット。実証試験では、タービン発電効率は72%以上とい う良い結果が出ました。温泉や電力系統に影響を及ぼさない温泉発電システムの実用機の実証を行った後、2013年度からは「環境省CO2排出削減対策強化 誘導型技術開発・実証事業~温泉発電における温泉熱利用効率の向上とノンフロン系媒体の安全性検証などによるCO2排出削減対策強化のための技術開発」を 行っています(~2015年度)。
温泉事業者の若手の中心人物である「ひなの宿ちとせ」専務で松之山温泉合同会社まんま代表社員の柳一成氏に伺いました。「松之山温泉は10軒の温泉事業 者から成る小さな組合ですので、新しい試みをやるのも動きやすい。捨てていた温泉の熱水を利用するわけですから大がかりな開発の必要はありません。地元で の合意形成に最大限配慮しながら、温泉街と共存できる可能性を探りたいと思っています」
バイナリー地熱発電による電力を具体的にどこに供給し利用していくかは、現在検討中です。「積雪が3メートルを超える豪雪地帯だけに融雪や温浴施設、そ して温泉熱を利用した低温調理加工所(約100平方メートル)などにバイナリー発電の排温水を使うことも考えています。また、過去の中越地震、中越沖地震 そして長野・新潟県境地震など度重なる災害経験からも、地域エネルギーの地産地消が災害時に大きな効力を発揮することでしょう」(柳氏)
■バイナリー地熱発電所
地熱発電は大きく分けて、「蒸気フラッシュ発電」(180~370度の高温資源利用)と「バイナリー地熱発電」があります。バイナリー地熱発電は、 80~150度の蒸気や熱水を熱源として、水より低い沸点を持つ媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電します。2つの媒体(水と低沸点媒 体)を利用することからバイナリーと呼ばれています。
松之山温泉のバイナリー地熱発電所は、温泉街の道路沿いの保有林の中にあります。積雪の多い時期でしたので、長靴を履き雪原の中を一歩一歩踏みしめなが ら5分ほど歩いて到着しました。開発を担当する地熱技術開発株式会社の技術部マネージャー、佐藤真丈氏に発電所内を案内していただきました。「ここではカ リーナサイクル発電というバイナリーの中でもアンモニア水の媒体を使った方式を採用しています。アンモニア水は、100度前後の熱源でも少ない熱水量で効 率よく発電できるという利点があります。ただ純粋アンモニアは毒物ですので、取り扱いには注意が必要です。タービンは新たに開発した超小型のものです。経 済的に200キロワット未満の小型発電設備は事業的に難しいといった面がありますので、コストをどう抑えていくかが大きな課題です」(佐藤氏)。また松之 山温泉の埋蔵資源量や継続的な採取可能量についても、現在調査・検討が行われています。
■成功モデルになれば人を呼ぶ
地熱は、地球内部から自然に放出されている熱を利用するもので、地球にやさしいエネルギー利用法です。11年の環境省のポテンシャル調査では、地熱発電 の賦存量は150度以上では2360万キロワット、120~150度では108万キロワット、53~120度では849万キロワットで合計賦存量は約 3310万キロワット。このほか、温泉発電のポテンシャルは72万キロワットと推計されています。
バイナリー地熱発電は、新たなボーリングなどをする必要がなく、天侯にも左右されず安定的に24時間発電できる利点があります。発電の最中に出る冷却水 の排熱もうまく利用すれば、温泉旅館のボイラーや暖房に使え、灯油や重油が節約できます。浴用に利用できず捨てられていた熱水を有効利用し、温泉街の活性 化につながるならば、各地の温泉地でも可能性が広がるのではないでしょうか。
再生可能エネルギーを利用したまちづくりが注目される中、松之山温泉が成功モデルになれば、各地から見学者が訪れることも期待できそうです。「地熱発電 と地域の共生」の地をせっかく訪ねるのですから、見学者には一泊してもらい、設備見学だけでなくゆっくり温泉に入り、地元の食事を味わい、心ゆくまで楽し んでもらいましょう。(松本真由美)
■まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1 ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムの コーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140302-00000557-san-soci
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